Column [I and Ahchoo : My first impression of Stapa SAITO]

 【コラム】

 私とハクション

 1996 村重正夫


スタパ斎藤。私がこの人物に初めて出会ったのは、たしか今から約7、8年前。
ログインという雑誌を読んでいるときのことであった。
そこには「いあ〜ん・バカンス」というものについての記事が掲載されていた。
なんとなく分かるだろう。そう、慰安旅行の事である。
つまりそれは、アスキーの慰安旅行の模様を紹介した記事であった。
数々の写真が、そのなごやかな馬鹿騒ぎの雰囲気を伝えていた。
読者にとっては、まあそれほど気になる記事ではない。穴埋め記事のようなものだった。
しかし、ふと気がついた。
写真のひとつ。バスの社内で撮影したものだろう。
日本人離れした風貌のヒゲもじゃの男が、目を見開き、口を大きく開けてこちらを見ているのだ。
写真の下には、
“ハクション大魔王”というキャプションがついていた。
私はそれを見た瞬間、

「あっ! ほんとだ!」
と、一瞬本気で思った。
しかし次の瞬間、
「でもよく考えたら、ハクション大魔王なんていないよな。あれはマンガだし。でもこの人は一体なんなんだろうな。ハクション大魔王じゃないとすると……ロシア人かも知れない……でも本当にハクション大魔王じゃないのか…」
などと、気になって仕方がなかった。
まあ出会いというほどのものでもない。しかし、インパクトだけはむやみにあった。

 
最近、この人の単行本が出た。
『スタパミン』というタイトルで、テックウィンの連載記事をまとめたものだ。
独特の文体と淀みなく流れる強引的な論理展開。その途中に挿入される突発的な擬音、駄洒落、自己突っ込み、特殊造語の数々。
また、このような無教養的な本を読んでいるところを人に見られるのは恥ずかしいという人のために、カバーがリバーシブルになっている。
裏返すと、官能小説誌風の装丁になるのだ。表紙一つにも魂を込めて工夫を凝らすスタパ氏の姿勢はまことに賞賛すべきものであり、是非ご一読をお勧めする。

この人は、コンピューターなどの衝動買いを得意としている。
そして、それをネタにすることによって記事を書き、金を稼ぎ、その金で新たな電磁デバイスの衝動買いをし、それをネタにして記事を書き、それでお金を儲け、その金で秋葉に繰り出し…………(以下略)というシステムになっているようだ。
その記事は読者にとって、コンピューターへつい金をつぎ込んでしまう自分への免罪符となる。そしてスタパ氏はそうやって集めたお金で更なる衝動買いをし、それを記事にしてお金を稼ぎ、その金でメモリーやハードディスクを増設し、その直後メモリーやハードディスクが大幅に値崩れし、その怒りを記事にして金を稼ぎ、その記事を読んだ読者はああ俺はここまで損してないからいいやと自らの浪費グセを正当化するために次々とスタパ氏の記事を読みあさり、記事を載せた本が売れ、その金でスタパ氏は……(以下略)。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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