Review [CHICCHAI Alien]

 【商品分析】

 ちっちゃいエイリアン(2001)

 2003 高沢秀人


ちっちゃいエイリアン」は、株式会社クリーチャーズから2001年2月に発売されたゲームボーイカラー用ゲームソフトである。

このゲームの特色は、ゲームボーイカラーに標準装備されていた「赤外線通信ポート」を通信とは別の用途に利用していた点にある。
その用途とは何か?
「宇宙人を捕まえる」というものであった!

ゲームボーイの赤外線ポートを、電気スタンドの光やテレビのリモコンの信号に向けると、当然それらに含まれている赤外線とその周辺の電波を受信することになる。
通常、ゲームボーイ同士の通信にはかかわりのないこれらの電波はノイズとして扱われ、省みられないものなのだが、それを利用してバーチャルな「目に見えない微生物の採集&観察ゲーム」を作ろうというのが、このソフトのコンセプトであった。
現実に存在する情報をゲーム内に入力し、その情報を変換して別の用途に使おうという点では「バーコードバトラー」にも通じるところもある発想だ。

ここまではよかった。
しかし、それをゲームの仕様に落とし込むところがよくなかった。

このゲームの流れを簡単に説明すると…
まず、いろいろな人工光にゲームボーイの赤外線ポートをかざして、その光の中に潜んでいるエイリアンを捕まえる。この「捕まえる」部分がボタン連打のミニゲームになっている。
捕まえたエイリアンは宇宙のスス「ダークマター」をまとっているので、これをまたボタン連打で払い、試験管の中に集めていく。ちなみにゲームの最終目的は、このススをたくさん集めて宇宙に返し、宇宙を元の姿に戻すことである。
次に、捕まえたエイリアンをパチンコのようなミニゲーム機の中に入れ、玉として使う。ここで高得点を取るとエイリアンのパワーが上がる。
パワーが上がったエイリアンとは、そのエイリアン独自のミニゲームで遊ぶことができる。そこで高得点を出すと、大きなスス饅頭がもらえる。これによってまたススが貯まり、最終目的に近づいていくことになる。
…という感じだ。

書いていてもそう思うのだが、非常に込み入っており、わかりにくいばかりか、なぜそうなっているのかが直感的に理解できない。
各パートでお互いまったく無関係のミニゲームをすることになっていて統一感がなく、面白くない。
それでこのゲームは失敗している。

しかし実際のところ、あるコンセプトを現実的な制約を考慮に入れながらうまくゲームの仕様に落とし込むことは、非常に難しいのだ。それはわかる。

例えば、「捕まえたエイリアンを育てて、対戦させるゲーム!」ということならば、話は分かりやすかった。ゲームとしても面白くできただろう。実際「バーコードバトラー」でも「モンスターファーム(CDをモンスターに見立てるゲーム)」でも、そうして成立させている。
しかし逆に言うと、このやり方はありがちで新鮮味に欠ける。しかも、この「ちっちゃいエイリアン」の制作・発売元のクリーチャーズという会社は、『ポケモン』の共同著作会社でもあるのだ(現在はポケモンの権利関連業務は「株式会社ポケモン」に移行)。似たような路線では作れない。

では「ミジンコの観察のように、本当に観察ソフトにしよう」としたらどうだったろうか。これも話は分かりやすい。しかし、この場合は先ほどのバトル案と違い、「ゲーム」にはなりにくくなってしまう。「ゲーム」になりにくいということはすなわち、何が目的でどうしたらいいのかわからないということ、それと、熱中して取り組もう!という気が起きにくいということだ。これはこれで商品としての「引き」は弱くなってしまう。

斬新ですぐれたコンセプトを、うまく「ゲーム」という形に落とし込む技量。
これは、これからより一般層へ向けたゲームを作らなければならない(※)ゲーム業界全体で必要とされるスキルになるだろう。


※近年、日本のゲームソフトの市場規模は縮小傾向にある(逆に海外では拡大している)。
※ゲームボーイアドバンスには「赤外線通信ポート」がついていないので、この『ちっちゃいエイリアン』は遊べません。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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