Review [Internet-Teki]

 【評論】

 インターネット的

 糸井重里(著) PHP新書 2001年発行

 2002 渡辺浩崇


 日本人が、未来というものにわくわくすることができなくなってから、けっこう経つと思います。それというのも、低成長の成熟社会とか情報化社会とかいった「今ここ」の内側に、勝ち負けではない「幸せ」を描き出せる舞台、つまりは「世界観」を見出すことができていなかったからではないでしょうか。
 この本は、そんな今という時代に、ポジティブで、楽しくて、わくわくするような新しい世界観を提案する本です。提案する本ですっていうと、何か啓蒙書みたいですが、それは著者も不本意ながらと認めるところです。
 「インターネット的であること」をひとことで言い切ることはできません。と、著者に言い切られてしまっているので困るのですが、それでも乱暴にひとことで言うと、「ある思いをもった人と、その思いに共鳴する人がつながっていくこと」だと言えます。だから、商品を作ることも、売ることも、会社を経営することも、そのリーダーシップを持っている人が自分の思いをおおぜいの人々に問いかけることで成り立つようになるというのです。受け手だって、問いかけに応じるためには自分の思いが必要になります。こうやって、思いと思いが、組織や役割を超えて一足飛びにつながっていくことで、新しい何かが生み出されていくというのが、これからの「インターネット的」世界なんじゃないかというわけです。
 それならば、です。そこでは思いが人を呼び、にぎわいを作ることができる。にぎわいがまずあれば、そこに商売をしたい人を巻き込むことができるんじゃないか。今までと主導権が逆転できるぞ。と、著者はそう考えて『ほぼ日刊イトイ新聞』を始めたそうです。
 クリエイティブということの、今の低い地位をひっくり返せるんじゃないかと考えたわけです。この辺なんかが、なんだか「万国のクリエイティブ労働者よ、立ち上がろう!」と言われているようで、この本は僕にとっての『共産党宣言』みたいな本になっています。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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