Review [Pocket Pikachu]

 【商品分析】

 ポケットピカチュウ(1998)

 2003 高沢秀人


ポケットピカチュウ」は1998年3月に任天堂株式会社から発売された、歩数計内蔵の小型携帯ゲーム機である。
プレイヤーがこれをベルトや胸ポケットなどに着けておくと、体の揺れによって歩いた歩数が計測され、その歩数でピカチュウが育っていくという内容だ。
発売されるや、ポケモンブームとも相まって一躍話題になり、大ヒット商品となった。

このゲームの中で、プレイヤーが歩くことによって蓄積した「歩数」は2つの意味を持つ。
ひとつは、プレイヤーが歩くことでピカチュウも同時に歩き、これによってピカチュウが成長していくというものだ。
プレイヤーが歩いていないとき、画面では、ピカチュウが勉強をしたり三輪車をこいで遊んだりといった日常的な行動をしているところを見ることができるのだが、成長すると、より様々なパターンのアクションをするようになっていく。
もうひとつは、プレイヤーが歩いた歩数によって「ワット」というゲーム内でのお金のようなものが貯まっていき、これをピカチュウにプレゼントすることで、ピカチュウとの親密さをアップさせることができるというものだ。
この2つの要素によって、「歩く」という行為が「ピカチュウの育成」という行為につながっている。

「ピカチュウを育てる」ために「歩く」。
ここでは、「ピカチュウが育っていくこと」は「歩く」という行為の動機付けになっている。
さらに、歩けば歩くほどピカチュウは育つので、たくさん歩いたプレイヤーは他のプレイヤーに自分のピカチュウを自慢することができる。これも「歩く」という行為の動機付けになっている。
本来ならあまり楽しくはない「歩く」という行為が、積極的にやりたい行為に変えられているのである。

つまりこのゲーム機は、「歩く」という日常生活の中でのごく普通の行動を「ピカチュウの育成」という楽しげな行為に読み替えるための道具なのだ。
日常生活を異化し、演出して、エンタテイメント化するための道具として、このようなセンサー玩具は非常に有効だ。
こらからどんな製品が出てくるのか、楽しみなところである。


実は、万歩計を使った携帯ミニゲームマシンはこの『ポケットピカチュウ』が最初ではない。
株式会社ハドソンから『てくてくエンジェル』というゲームが先行して発売されていた。
しかし、これはあまり売れなかった。
その理由は、内容の差もさることながら、この「ピカチュウ」というキャラクターの知名度という点が大きい。やはり有名キャラクターは強いのだ。
しかし、あの『たまごっち』はオリジナルのキャラクターである。
それだけ『たまごっち』のキャラクターデザインは秀逸だったということだが、それだけではない。
『たまごっち』は携帯ミニゲームで「育成」ということを題材にした最初の商品なのだ。
これは大きなインパクトがあった。

つまり商品としての訴求力を生み出すには、まずキャラクターが重要で、それが弱いのであれば、構造自体で目立たせるしかないということだ。

ちなみに、この『ポケットピカチュウ』は第2弾も発売された。
しかし、これはヒットしなかった。
キャラクターにも構造にも新鮮味がなかったということなのだろう。
カラー液晶が使われ、赤外線通信機能がつき、ゲームボーイソフトの『ポケットモンスター金銀』と連動するという仕掛けも盛り込まれていたり、結構がんばっていたのだが。

※この「ポケットピカチュウ」、最終的には「100万歩」達成でエンディングを迎えるようになっていました。
 しかし、電池が持つ期間は約2週間。
 この間に100万歩というのは、かなり頑張らないと達成できないペースだったようで、
 100万歩を目前にして電池切れし、地団駄を踏むユーザーが続出したらしいです。


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 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
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