Review [The Sun is in our Hands]

 【商品分析】

 ボクらの太陽(2003)

 2003 高沢秀人


ボクらの太陽」は、株式会社コナミから2003年7月に発売されたゲームボーイアドバンス用ゲームソフトである。

このゲームソフトの特色は、カートリッジに光センサーが内蔵されているところである。 そのセンサーに太陽光を当てることで、ゲーム内で主人公の武器にエネルギーがチャージされる。
この武器(太陽銃)を使って、バンパイアと戦うというのがこのゲームの内容である。
好きなところに持ち運んで遊べるという携帯ゲーム機の特性を生かし、そこに「太陽光」という要素を持ち込むことによって、「自然条件を鑑みながら遊ぶ」という新しいプレイスタイルを提案しようとしているのだ。

これは例えば、「釣り」を思い浮かべてもらえればわかりやすい。釣りでは、季節やその日の天候・気温・湿度といったさまざまな自然条件を考慮しながら、最適なポイント・仕掛け・餌などを選ぶことが重要になっている。釣りに行く前の日には天気予報をチェックし、持って行く道具を選ぶ。また、途中で急に天候が変わったりするようなアクシデントも起こり、その場その場で機転を働かせて臨機応変に対応していくことも必要になる。

このような、アウトドア系の遊びのエッセンスを「太陽光」の要素によってゲームに取り入れようというのがこのゲームのコンセプトであった。
「太陽」といえば「バンパイアを倒す」というモチーフのつながりも、直感的でわかりやすい。

ここまではよかった。
しかし、それをゲームの仕様に落とし込む段階になった途端、もともとこの企画がはらんでいた数々の矛盾が噴出してくる。それは作る前から分かっていたはずだが、このソフトのディレクターは果敢にもその矛盾に挑戦した。新しいものを作るには、このような挑戦は絶対に必要である。
だが結果としては、いくつかの理由であまりうまくいかず、非常に遊びづらいものになってしまった。その理由とは何だろうか?

まず、コンピューターゲームの大きな長所である「自分の好きなときに遊べる」という利点と、このソフトのコンセプトが真っ向からぶつかってしまった。とにかく、思うように遊べないのだ。
まず当然のことながら、太陽が一番出ている生活時間帯には、通常、ゲームのほかにやることがある。これは大人も子供も同じだろう。週末にやるアウトドア系の遊びとはここが一番大きく異なる点である。ゲームは買ったら毎日遊びたいのだ。
当然、太陽が出ていない時間帯には別の攻略法でそれなりに遊べる設計にはしてあるのだが、実際の作りが雑で、ゲームバランスもかなり厳しいものになっていた。
やっと巡ってきた週末が曇りだった日には、目も当てられない。

こうなった理由のひとつは、「太陽光」の要素の取り入れ方が、負の方向であったということが言える。ゲームを進めるのに絶対に必要なエネルギーが「太陽光」を通してしか手に入らない。
“太陽が出ていたらより有利になってうれしい”ではなく、“太陽が出ないと不利になりすぎて遊べない”という方向に「太陽光」の要素が使われている。足かせとして取り入れられているのだ。
しかし、だからといって、「普通にプレイしてもクリアできるが、太陽が照っているとよりラク」というバランスにしてしまうと、太陽センサーの意味が薄くなってしまう。 おそらく、「武器のエネルギー」という、“多い←→少ない”の軸しかない要素にメインの「太陽光」を当てはめてしまったのがよくなかったのではないか。一義的な要素の方が、わかりやすくはあるのだが。
例えば、『ちっちゃいエイリアン』は、取り入れる電波の性質によって捕まえられるエイリアンが変わるようになっていた。この場合は、光を評価する基準が一軸ではないので、「この光だとどんなエイリアンが捕れるかな?」というように、どんな光を取るときにもそれなりに期待感やうれしさがともなっていた。

このように、天候の変化の多様性やプレイヤーの遊び方の多様性を「有利←→不利」という一義的な基準ではなく、ゲームの攻略法の多様性に結び付ける方向に向けられていれば、上記のような問題ももう少し改善されていたのではないだろうか。
とはいえ、やはり、この種の仕様設計は非常に難しいのである。それはわかっている。

そして最後に、遊びづらくなってしまった理由として、実はこれが一番大きかったのかもしれないという要因がある。
それは…
今年(2003年)が、近年まれに見る冷夏だったということだ。
これは不運だったとしか言いようがない。
いつ梅雨明けしたのかどうかわからないような曇り空が続く夏なのに、ゲームでは通常の夏の日の光で普通に遊べるように設定されている。これではまともに遊べなくても無理はない。バランス設定やデバッグも統計値で行ったのであろうし。

しかし、このコンセプト、この試みには拍手を贈りたい。
今回の結果をバネにして、より面白いものを作っていければと私は考える。


※筆者は晴れた日(8月)に屋外で遊んでみたのですが、非常に暑かった。
 それとゲームボーイアドバンスSPでは、カセットを差す方向が逆になるので、
 センサーを太陽光に当てるために前のめりの姿勢でプレイしなければならず、これも非常に疲れました。
 また、曇りの日はボスが倒せなくて困りました。


【目次に戻る】

 日本偽現実工学会会報 [The Bulletin of Japanese Fake Reality Engineering Society]
 *このサイトはリンクフリーです。無断転載は禁止いたしますが、無断リンクは奨励いたします。 postman@fake-reality.com